「環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態」

環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態
ビョルン・ロンボルグ (著), 山形 浩生 (翻訳)
2003年6月30日第一刷 文芸春秋(発行)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163650806/qid%3D1098275055/250-2354919-6820259#product-details

 著者の主張はこうだ。
1、世界はマシになってきているが、十分に良いわけではない。
2、さらにマシにするために、効率的な投資をするべきだ。
3、効率においては第三世界への投資*1が環境投資に比べてはるかに優れている。
 もっともな主張だと思う。

 ただ、この本で最も興味をひかれるのは、著者が膨大な引用(2930個!)を駆使して僕らに植え付けられた環境問題の神話・ヨタ話をバッサバッサと切り捨てていくところだろう。一人当たり食糧は増えているし/富の格差は縮まっているし/森林減少は軽微だし/エネルギーも資源も枯渇しっこないし/水も膨大にあるし/空気は中世以来のきれいさだし/酸性雨はむしろ樹木の生長に良かったりもするし/ペルシャ湾の生態系は回復してるし/ゴミの捨て場には困らないし/農薬は便益の方がはるかに高いし/生物の絶滅速度もたいしたことないし/二酸化炭素排出削減に血道をあげるよりもっといいお金の使い方を考えるべきだし。こういった話を環境論者と「同じ」データを使ってわかりやすく展開していく。
 わかりやすく、というのは大事だ。この本の翻訳は一人称が「ぼく」だし*2、全体が語りかけ口調で統一されている。ツボを心得ている訳者に賛辞を贈りたい。この文なら小学生でも理解できる。読んでて騙されたと思って裏を取りたくなったなら、豊富な注と誰でもアクセスできる統計が用意されている。そういった意味で、この本は論文に非常に近い。
 この一冊は実際のところ、80年代から90年代初頭の幼少年期を通してヒステリックな環境問題報道を浴びせかけられ続けた、僕ら世代のためにあるのではないだろうか。酸性雨に立ち枯れする黒い森の写真がマブタの裏から消えないそこのあなた、そこのあなたこそコイツを読むべきなのですよ。

*1:具体的には貧困、飢餓、水インフラ等

*2:「僕」でもなく、もちろん「私」でもなく