エンジェル・ハイロゥ

 今日の満月は輪を伴って、空から町を睥睨していた。
 24時の深夜。空を均一に薄く覆う雲に月の光が散らされて、霧の向うに太陽が一度ったときに虹の輪ができるように、空に大きく月光の輪が形作られていた。視野角に広く占めるその円は、ビルの向うに。電線の向うに。歩いても歩いても、月の輪はそこにあった。
 それはひどく幻想的な光景で、今ここは特別な時間なのではないかと錯覚させるに足る印象を与えた。いつもの帰り道、足が止まって、しばらく月の眼に縛られた。
 だけれども、地上に意識を戻すと、空に向けて顔をあげるものは僕の他にいなくて、とにかく誰かにこの感覚を共有してほしくて、道行く人をかたっぱしから捕まえて、なんで上を見上げないんだ、と問いただしたかった。今大変なことになっているんだ、と叫びたかった。その替りに、比較的近くに住んでいる友達にメールを送った。Twitterとかやってるひとはこうなのかと思った。常に世間に叫びたいことがあるのだ。共有したことがたくさんあるのだ。僕にそんなものはないけど、今はそうなんだ。みんな、空を見上げてほしいのだ。これはね、めったにあることじゃあないんだ。
 iPhoneで写真もとったけど、夜空に対してはパワー不足はなはだしく、貧弱なものにしかならない。せめてシャッタースピードくらい弄りたいが、Appleにそんなことを期待しても仕方がない。