プログラマーのジレンマ

 高名な方々が夢のソフトウェアを作ろうとするけど上手くいかないというノンフィクション。
 「ソフトウェアは難しい」というクヌースの短すぎる警句に始まり、そこに終わる話。数年の歳月と多大な費用を使い、結局ソフトは(思ったとおりには)完成しない。うるさいボスなし。意味のないMTGなし。9時5時。集中できる環境。ナウい言語(Python)。だけどソフトウェアは完成しない。
 私見だけど、ソフトウェアがなぜ難しいのか、というのは「常に前例がない」ことに尽きるのではないだろうか。家を建てるのとは違うのだ。ぴったりの前例があるなら、そのソフトウェアは再発明する必要がない。いつかうまくいくことが確約されているのは、すでに成功したソフトウェアをコピーするようなプロジェクトだ。いつかはコピーが終わる。そんなの夢がない。でも、夢を見るということは現実が見えていないということでもある。
 前例がないというのは、無人の荒野を地図もコンパスもなしに進むことだ。当然迷う。
 読み終わった後、チャンドラーをダウンロードして動かしてみた。メモが書けて、そのメモに日付を足すとタスクになって、カレンダーに自動的に表示される。届いたメールをタスクにすることもできる。このシームレスさが夢として描かれていた。でも、僕は別にメモをタスクにしたいと思わないし、そもそもタスクに化けそうなほどでかい用事をメモ書きにしないし、メールはメーラーで十分だ。それぞれを別個に起動したほうが動作が速い。思うに、このプロジェクトは「シームレス」なんて夢を持たずに、「マルチユーザーによる共有@P2P」を主眼に置けばよかったんだろう。
 原題は"Dreaming in cord"というらしい。夢は計画的に見よう。
 夢見る人がいるから楽しいんだけどね。