闘うプログラマー

 同僚に借りた。「たたぷろ」と略すらしい。ちょっとかわいい。
 内容はぜんぜんかわいくない。WindowsNTの出荷までを描いたドキュメンタリーなのだけど、チームのボスであるカトラーは、超鬼がつくほどの仕事人間。仕事が大事すぎて二回離婚して、無駄なことをしてしまったと後悔するほどの仕事人間。朝六時半から深夜まで缶詰とか普通なの。そんで筋金入りのプログラマー。そのスキルをチーム全員に求めちゃうほどの完璧人間。んで怒りっぽい。壁とか蹴っちゃうし殴っちゃうし指とか折れちゃう。でも仕事する。チームメンバーとか仕事に巻き込まれすぎて離婚続出。家庭崩壊とかザラ。
 典型的デスマーチなのだけど、期限を1年以上ずれ込んで、NTは完成する。NTが出来ていなかったらMeが最先端を担っていたわけで、いやほんとNTがあって良かった。
 前述の「プログラマーのジレンマ」は失敗し、この「闘うプログラマー」は成功した。まあ、製品が完成したのだから、成功といっていいだろう。しかし、こうも死屍累々となられては、もろ手を挙げて成功ともいいがたい。「大統領、お喜び下さい。偉大な戦果です。 私の予想よりも二台も犠牲が少ない」みたいな。
 NTも相当の夢を抱えて出発する。「CPU間の移植性」「DOS/Windowsとの移植性」「サーバー用途に絶えうるファイルシステムの信頼性」といったところか。ただ、カトラーの老獪なところは、これらの夢をほとんど実現可能なものに抑えているところだ。前二者はすでに技術的に可能とされていることだったし、3つ目に関しては旧ファイルシステムを温存して、うまくいかなかったときの代替案を用意している(そのせいで新システムの開発が遅れたという失点はあるけれど)。さらに、開発には流行りだしたC++を採用せず、使い慣れたCにこだわった。ここらへんがチャンドラープロジェクトと異なる点かもしれない。夢の荒野に踏み出すときには、あらかじめ計画を立て、迷ったときのアリアドネの糸を持ち、履き慣れた靴を用意する。
 カトラーが優れたボスであることは間違いない。だが、NTプロジェクトに加わりたいかというと、うーん……ちょっと悩むな。胃薬常備か……。