鉄の夢

 という、「鉤十字の帝王」という小説本体、そして序文とあとがき、が「鉄の夢」というSF作品を構成する全てである。他は一切なにもなし。
 ヒトラーが政治家にならず、第二次世界大戦も起きなかった架空世界において、さらに超架空世界を書いた小説。そしてそれに対する架空世界の序文。架空世界の批評家によるあとがき。それらが構成する、現実のSF作品。考えれば考えるほどこんがらがってくるこのメタ構造はアイディア賞をあげてもいい(ヒューゴー賞はあげられないけど)。
 しかし肝心の「鉤十字の帝王」がメタ構造を楽しむためのものでしかなく、いまいち出来がよろしくないのはちょっといただけない。というか出来の悪さを架空世界の批評家があとがきで指摘しまくってるから、狙って出来を悪くしてるんだけど、……それでもねえ。
 架空世界ではソ連が相当幅を利かせていて、残っているのがアメリカと日本だけらしい。なんでも武士道があるから日本は対抗できているが、アメリカは理念がないからダメだとのこと。へえ。この小説が書かれた1972年にはそういう見方もあったのかもしれない。
 アメリカにある「武士道騎士団」という団体名にややウケた。確かにそれは理念ないな。