もってけ! わだつみのこえ

 星条旗とか手紙とかの映画を観る前に、なんとなく気になる言葉があった。
 僕は読んだことがないのだけど、「きけわだつみのこえ」という特攻隊の遺書集に、こんな言葉があるらしい。だいぶ昔に聞いたから、まるで正確ではない。
 「日本は負けるだろう。日本は駄目になるだろう。しかし、国のためにこうして命を散らした者がいたという事実は、いつか日本民族を再び立ち直らすことになる。そう信じている。」そんな感じだった。
 僕はその言葉に背筋が震えるような気がした。すごい人だな、と思う。
 しかし同時に、なんか変だなとも思う。民族なんてものが意識されるようになったのは、外に敵がいるからだ。外の敵と総力戦をやるためにでっちあげられた概念だ。そんなあやふやなもののために死ぬ価値があるのだろうか。当時には意味があったのかもしれないが、戦後には通用しない価値観なのではないか。
 硫黄島からの手紙を見たときも、やっぱり愛国心とか、民族への想いなどは僕にはなかった。
 でも、あの特攻隊員の言葉に感じ入るところがあるのは事実だ。
 最近になって何となくわかってきたのだけど、たぶん僕が感銘を受けたのは、自分以外の何かに命をかけられるという姿勢なんじゃないかって。
 全精力を――自分の命だってベットしてしまう、見返りを期待するとかじゃなくて、ただ全身で信頼しきっている。疑いを持たない。
 対象が国であれ、民族であれ、人であれ、研究であれ、二次元であれ、自らを投げ打つ姿は美しい。憧れるのは当然だ。
 ただ、いくらなんでも刹那的すぎる。僕がそんな姿勢を持つことは一生ないだろう。だから逆に惹かれるのかもしれない。
 いつかこの身を投げ出せるようなものに出会えるんじゃないかと期待しながら、そんなものはないとわかっているから、僕らは映画館に行ったりするのだ。