7日25時のセンチメント

 夜になって、急に冷え込んだ日だった。
 僕は終電に乗って、25時のベッドタウンに帰ってきた。耳元のイヤホンから蒼星石の歌う槙原敬之が流れている。見上げると、少し欠けた月が煌々と町を照らしている。妙に明るい。僕にわかる数少ない星座、オリオン座が大きくその姿を現している。そうか、今日は晴れていたんだなと今更ながら気づく。同時に、少し不思議に思う。冬の星座オリオンから対極に位置する蠍座が、なぜ11月の誕生星座に決まったのだろうか。
 町は月と電燈に照らされ、まだ明るい。遠くのマンションの古びた蛍光灯が、規則的に点滅を繰り返しているのが見える。僕以外の誰かが住んでいるマンションだ。そんなことに気づいて、意識してゆっくりと歩いてみる。
 25時は不思議な時間帯だ。昨日でもあるし、今日でもある。24時が境界として機能しなくなったのはいつ頃だろうか。自分に関すれば高校の頃だし、人類史で言えば、……何時だろう? きっと町に電燈が置かれるようになってからだろう。
 遅々とした歩みも、僕が住んできたマンションに着く。ぼんやりと白く光るランプのシェーダーを軽く撫でると、じわりとあたたかい。この中で白熱燈のフィラメントが白く燃えているのか。共同玄関までの道に、わずかな落葉が見える。広葉樹は中途半端な紅葉をしていた。なかば赤く、なかば黄色く、なかば青かった。一枚の葉のなかでさえ色がまじりあっていた。秋は中途半端な季節とか、誰かが歌っていた気がする。秋は中途半端な季節で、誰かに恋をしたり、すれ違ったりします。だからこの歌は僕からあなたへの贈り物です――
 25歳だ。