ピンクフロイド 「狂気」

 狂気 (30周年記念盤)(SACD)
 原題「The Dark Side Of The Moon」。やたらめったら売れたCDであるらしい。
 ピンクフロイドがどれだけメジャーなのかは知らないが、僕はあまり彼らを知らずに育った。ただまあ、彼らはやはり偉大だったそうで、間接的に彼らの影響力というものは及んでいるらしい。たとえばMOTHER2でムーンサイドという街があって、その裏側はダークサイドだ。そしてそのテーマは「狂気」なのだ。かのように、知らぬ間に刷り込まれているような作品は偉大であるといえる。ジャンプでジョジョネタを読んでいる小学生も、いつかは原典にあたってあまりに偉大さに感涙し咽び泣くことであろう。ハッハッハ。
 前置きが長くなったけど、このアルバムのいいところは「気軽に聞ける」ところだ。
 なんだよそれ、普通じゃねえか――いや、そういうコメントをつけるのは少し待って欲しいものだ。ピンクフロイドで「気軽に聞ける」というのがどれだけ凄いことなのかを、僕の体験からわかってほしいのだ。
 ピンクフロイドの大ファンはいまだ多くこの世に存在しているというので、あまり大きな声では言えないのだが、例えば「原子聖母」だ。ジョジョの「アトム・ハート・ファーザー」の元ネタの、牛ジャケットのあのアルバムだ。あの一曲目が23分もあるアレ、ぶっちゃけた話、眠い。真面目に聴き込まないと、気がついたら終わってた、気がついたら眠ってたといった類の音楽だと思う。ラストの曲もイギリスの糞マズイ・パープルカラーの・ぶれックファーストを・咀嚼音を「グッチャグッチャ」と響かせながら食らうとかいう「へえ、牛のジャケットと合わせてあるんだね。面白い試みですことね。キモイんだよ!ファック!」といった曲で、これもまた無意味に長い。これが歴史的名盤だって? ふぅーん。
 だが、この「狂気」は違うね。なんせ、3曲目には目覚まし時計が鳴るし、眠くなることは全くない。歌詞だって最高だ。「金 こいつは最高だぜ」と歌うかと思えば、「まだ先があるさとニートしてたら10年経ってたぜ(意訳)」とか、そんなワクワクするもので一杯だ。構成は短期的な抑揚がつけられ、飽きることがない。レジキャッシャーの「チャキーン」という音が使われている曲もある。……イギリス人の咀嚼音よりずっと良い! 歴史的名盤とやらを続発させたピンクフロイドの音楽が、こうも簡単に入門でき、しかも簡単には飽きることがない。
 そういうわけで、試しに聴いてみて「俺もこれでロック通だぜ」とか思い上がって恥をかくといいよ。