異郷の人から

 同期と別れて、ピンクフロイドカナル型イヤホンで聞きながら王子駅のホームに立っていた。右側に気配を感じて振り返ると、黒人さんが僕に話しかけていたのだ。
 カナル型ってのは耳栓型で、外部の音がまったく聞こえない。だから気づいたのはなかば偶然のようなものだった。あるいは、数秒くらい無視していたように見えたかもしれなかった。少し悪かったな、と思いながら耳栓を取った。
「ミニャミウーラ ナンプンデスカ」
 南浦和までの所要時間を訊ねてきているようだった。僕は20分弱と答えて、通じなかったので20分と言い直した。彼は南越谷まで行けるかをさらに心配していたので、僕は携帯で乗り換えを調べて、彼に大丈夫だと教えた。南浦和には00:02に着くし、00:10発に乗れば00:22には南越谷に着きますよ、と。
 彼は「ありがとうございます。ダンケシェーン」と答えた。
 ヒスパニックだと思っていた彼から、ドイツ語で感謝されるのに混乱しながら、僕は車輌を移った。それで今日の出来事は終わりだ。