犬とてんびん ベニスの商人

 犬の値段は3500円だった。3500円というのはいかほどの価値なのだろうか?帰り道に自転車を漕ぎながら、ふとそんなことを考えた。
 金額を提示されて最初に考えるのは、それが5円チョコ何枚分であるかである。小学生時代からこの出発点がみみっちく染み付いている。今回は700枚分だ。しかし、700枚のチョコと犬の首をうりうりするのは、明らかに後者の方が楽しい。5円チョコより犬の方が価値がある。僕はそう思う。
 じゃあCDはどうだろう?アルバムを買ったら3000円だ。音楽なら気に入ってしまえば何時までも楽しめるし、ぬいぐるみのように物理的な劣化もない。これはいい勝負になりそうだ。しかし僕には当面聞きたい新譜はないし、古いものならレンタルすれば事足りる。これも却下だ。
 映画。しばらく観る予定はないが、名画座なら3.5×2本。新作なら2本といったところ。ハウルと雲の向こう、だろうか。これは実は結構いいプランかもしれない。それに雲の向こうは気がついたら上映が終わっていそうでもある。これはぬいぐるみを買う買わないに関わらず、早めに足を運ばなければいけない。
 と、考えているうちに、自転車が小さな画材屋の前を通った。油絵具から毛筆まで揃えているが、いかんせん小さな店である。中を覗いてさほど面白いところでもない。そこの軒には額縁が並べられていて、それの値札が3850円。大きくて場所をとりそうな枠に、センス無くゴテゴテした装飾の額縁である。むしろ積極的にいらないブツだ。ゴミの日に出しても誰も拾わない、もちろん軒先に売りに出しても誰も手に取らない、そして掃除もされずにホコリをかぶってほったらかしにされている。しかし、額縁と犬は金銭的には同価値なのだ。そしていつかはこの額縁に3850円を見出す人が来るのだろう。
 3500円というものは意外と多くのものに化ける。中古のゲームソフトであったり、文庫本7冊であったり、安いジャケットだったり、高いTシャツだったり、豚丼12杯であったり、コンビニパン34個であったり、あるいは元旦のお賽銭でそれぐらい投げてしまう人もいるかもしれないし、経済学をやっている人が機会費用を持ち出して、3時間の昼寝と同価値だと断ずることだって出来る。まったく、お金は価値観を映し出すなぁクワバラクワバラわんわん、とかそんなことを犬は言っていた。今更である。
 24を消化中。撮り損ねた回があったのでDVDを借りてきた。ご都合とキムにさえ目をつぶれば結構楽しいが、少しダレてきたな。飽きたか。