「大脱走」

 脱獄のプロが集められた難攻不落の軍事刑務所――これは実話である。
 大脱走。実話となると、その凄みは重い。例えば、スティーブ・マックィーン演じる「独房王」ヘルツは単身脱走を成功させて、周囲の地理条件を調べて刑務所に帰ってくるのだ。わざとである。1人で逃げればいいのに、男は独房に帰ってくる。こんなことができるだろうか。映画のなかにならいるかもしれない。しかしこれは実話なのだ。トラブルもある、致命的な失敗もある、死へ向かうときもある、しかし男達は最後の瞬間まで諦めない。あるいは、それを越えても諦めない。鉄条網の前で両手を挙げるマックィーンの表情はまさに不屈の笑みなのだ。
 じっくりと血液温度を上げたい人にオススメ。耳について離れないテーマ曲とともに、ジワジワ効いてきます。
 荒木飛呂彦の「繰り返し見た映画ランキング」一位。
 ところでまるで関係ないけれど、上映後のトイレに行ったら個室に入った人がものの一分と数十秒で出てきた。しかも紙に折り目をつけていた。あまりの素早さに、「グッジョブ」と言うべきか「splendid!」と劇中のコリンの口癖を真似るべきか逡巡していると、やはり素早く手を洗って足早に立ち去っていってしまった。その個室に入ってからも考えたけれど、いまでも彼の手際をどのように褒めるべきかわからない。トイレの中だもの、むずかしいね。