泥酔男のこと

 初期変換が「泥酔男の子と」だった。ショタの響き!
 少し早めに帰った平日の夜、24時の小道を僕は歩いていた。家まで徒歩5分の距離であった。その小道の脇に、男が1人横たわっていた。
 無視して通り過ぎるのがベストであったが、折り悪くその小道には自転車をこぐ若者がひとりと、喫茶店のおかみさんがいて、僕とその二人は「ひとさまの手前で泥酔男を無視して去るのはどうも気が引ける」という無邪気な人の良さを持っていた。
 三者牽制の後、男を小突くも起きる気配なし。僕は携帯で110番をかけて、警察に全てを任せることにした。現在地と氏名、状況を告げて、待つこと10分。若者は帰った。おかみさんはざくろジュースとせんべいを差し入れてくれた。さらに差し入れられそうだったので、慌てて断った。見知らぬ人からものをもらってはいけないと教えられているからである。街灯の弱い明かりの下で、Delphiオブジェクト指向についての本を読みながら、パトカーの来るのを待った。
 やがてやってきた警官はふたりで、1人はノートを差し出し、住所・氏名・電話番号を控えるように言った。事件に発展したときのための処置であるそうだ。ふぅん。
 もう1人が、手際よく泥酔男を起こしていた。その光景を背に僕は帰宅した。
 泥酔男は僕らが通報したおかげで風邪もひかないだろうし、鞄も盗られずに済んだ。しかしここで無視しておけば、彼は失った鞄とともに深く反省して、二度と深酒をしないよう心に固く誓うかもしれない。これでよかったのだろうか。まあいい、本当のところは彼がどうなろうとあまり興味はないのだ。