世界でもっとも暇な人種

 大学在籍中に何冊の本を読むことが出来るか?ひとつの目安は生協の売り文句、100冊だろう。僕の場合はとりあえず200冊程度だった。しかし、僕が読んだ作家はせいぜい40人程度、気に入った作家ばかりをつまんでいたせいで、偏りが激しい。新聞ベストテンに選ばれる作家で読んだことがあるのが3、4人しかいなかったりする。僕は読書家なんかではないし、きっと大学在籍中に読める本は200冊なんてヌルい数ではないのだ。世界は本で溢れている。
 では、ここでもう一回問いを放とう。
「大学在籍中に読める本は何冊か?」
 これに答えるためには、まず大学在籍中の総自由時間を考えねばならない。大学生が4年間で卒業する場合、どれだけの自由時間が存在するのだろうか。飯は早食い、トイレは快便、風呂はカラスの行水。友人付き合いはしないし、講義は基本的に全てサボるか、内職で読書に勤しむ。試験直前に10時間ほど勉強時間に当てれば、可は来るような甘っちょろい大学の文系学部に入る。卒業必要単位は120単位として、4単位ごとの30講義を受ける。
 なお、通学時間やバイト時間は考慮しない。もっとも都合の良い場合を想定するからだ。勉強時間は10時間も必要ないだろうが、これは誤差の範囲としてほしい。

一日:24h
睡眠時間:6h
生理的時間:2h
一日自由時間:16時h (24-6-2=16)
年間自由時間:5840h (16*365)
勉強時間:300h (10h*30)
在籍自由時間:23060h (5840*4-300)

 さて、一冊あたり何時間で片付けることができるかを仮定しよう。僕は速読の心得がないけど、速読で薄めの小説中心なら一冊一時間のペースで消化するだろう。ただし、これはギネス記録を狙った場合の話。実際は厚い小説だって読みたいだろうし、学術書や原書、その他につまみ食いをする。ペースは目に見えて落ちるはずだ。適当な仮定だけど、一冊3?4時間ぐらいだろうか。僕ら一般人は一冊6、7時間としてみよう。

・記録狙い
  23060h/1 = 23060冊
・読書中毒ペース(速読)
  23060/3?4 = 5765?7686冊
・読書中毒ペース(一般)
  23060/6?7 = 3294?3843冊

 最大で23060冊ということになる。二万三千六十である。とてつもない数だ。少し、この数を検証してみよう。
 全国の市立図書館の蔵書数は――googleによる適当な検索によれば――蔵書10万冊強と20から30万冊の2グループに大別できるようだ。大きな図書館でなければ、大学在籍中に20%を制圧できる可能性がある。特に児童書がねらい目だ。
 しかし、どうせ大学なんだから大学図書館を狙いたい。早稲田大学サイトには早稲田大学図書館の蔵書数は448万冊(2001年時点)とあり、親切なことに大学平均蔵書数も掲載されている。そこによれば国立大平均92.3万冊、公立大学平均22.6万冊、私立大学平均30万冊だ。もしも読書中毒ギネス愛好者が早稲田大学を狙った場合、4年間で読めるのはたった0.5%となるが、公立の図書館が小さい大学を狙えば、市立図書館以上の善戦が期待できるだろう。ともあれ、早稲田の蔵書数がここまで多いとは思わなかった。僕は0.0045%にしか手を出せていない。このページを見ている人は母校の蔵書数を調べてみると面白いかもしれない。
 そして最後の関門は日本最大の図書館、国立国会図書館だ。サイトを訪ねてみれば、所蔵数は図書7,914,460冊とのこと。791万冊・・・早稲田の二倍以下なのだ。ちょっぴり拍子抜けである。4年間で攻略できる本は0.29%だ。
 以上の所蔵数は、雑誌は含めていない。また、全館を合計したものだ。つまり、国立国会図書館は関東と関西を足したものだし、早稲田も各所を合計したものだ。単館で計算すれば数はまた違ってくる。
 しかし僕らは別に記録を打ち立てるために、図書館を粉砕するために本を読むわけではない。娯楽のためだ。だから、ここは4年間で3500冊ぐらいが妥当な線なのだろう。これは僕が大学全ての時間を読書に割り当てたときの冊数ということになる。僕の200冊は3500冊の5.7%。ということは、僕は自由時間の5.7%だけを読書に割り当てたということだ。サークル、友達付き合い、昼寝、ゲーム、ネット、2ちゃんねるといったものに。読書家であるということは、せめて大学人生の10%以上を読書に捧げた人、350冊以上を読んだ人を指すのではないだろうか。そうでなければ、トレーニングに明け暮れる運動系の方々が浮かばれない。彼らが捧げる時間は10%どころではあるまい。


 なにはともあれ、この計算で一番驚きなのは、学生はやろうと思えば一日16時間、四年で23060時間もの自由時間があるということだ。もし八年まで留年すれば、46420時間にもなる。四万六千時間!これを二十歳前後の最も活動的な時期に扱えるのだ。僕が大学在籍中、あれほど暇だ暇だと思っていたのも頷ける。文系不良学生が秘める可能性というのは、果てしないものなのだ。