宿の予約を取るため、京都に電話をかける。あ、もしもし?予約を取りたいんですがー、と学生丸出し声で電話をかける。携帯電話番号、名前、何名かを定型通り伝え終わる頃には「ううむ、やはり向こうは京都訛りなのだなあ」と妙なところで感心していた。075という市外局番を繋げた電話線の向こうは既に敵地である。
 僕は京都訛りは音として好きなのだが、会話形態としては苦手である。というのは、京都の人というのは本意を婉曲的に伝えてくる傾向があるせいである。友達付き合いとなると別なのかもしれないが、こと社交的な会話となると原則的には関東から出たことのない精神的ヒキコモリの僕には理解不能な世界に突入する。去年・今年と都合二回ほど任天堂の面接を受けたのだが、あそこの面接は本拠地を京都に構えているだけあって、かなり特殊だ。面接はお決まりの質問から始まって、たまに脱線もし、かなり雰囲気のいいままに終わる。みんなの就職活動日記などのログを読んでみても、たいがいが「いい雰囲気でした^^」に近いコメントを残している。なので、「ムムム、これは好感触」などと浮かれていると、いつまでも来ない連絡にがっくりくることになる。面接官は腹の中では学生を切り捨てておいて、それでいて表情はにこやかに談笑を仕掛けてくるのである。関東の会社はそういうときは表情がピクリと動く。部屋の空気が露骨に下がる。単純な関東人からすれば、京都の人間は妖怪である。関西弁は絶対他言語には翻訳できない。きっと使用者の共有する背景が多すぎるのだ。
 今回の電話も例に漏れず、最後に聞かれたのは「京都に着くのは何時ごろですか」というもので、これが真に問うているのは「つまり何時ごろ宿に着くんじゃワレェ」ということであり、「午前中には京都に着きますよワハハ」などと何も考えずに答えてしまった僕は電話の向こう側で「それくらい察しろよこの関東人め」と舌打ちされているに違いないのである。今回ネットで検索してみて、京都市内にゲストハウスが多数存在していることを知ったけれども、はたして京都人が英語を使うとき、どんな表現になるのだろうか。そしてそれは外国人に通じるのか?
 京都に行くのは初めてだけど、色々と苦労しそうだ。おいでやす京都、なんていうけれど、ほんとは何企んでるのかさっぱりなのだ。