にげる×8回

 僕は疲れた。
 何がイヤだって、客先に出ることほどイヤなものはない。というのは単なる強調表現で、もちろんもっとイヤなことは世の中に腐るほどある。だけど、客先っていう空間が最低だってことを僕は言いたいのだ。
 昨日、月曜日の話になるが、僕は午前9時半の品川にいた。品川のお客様のところにいって、僕らのヘボプログラムがやらかしたヘボミスを、僕らの両肩からぶら下がった両腕についている10本の指で、元通りにするために馳せ参じたというわけなのだ。手作業だ。ワオ。
 言っちゃあ何だが、僕らの仕事は最低だ。理由は色々あるし、言い訳は100と並べられるだろうし、何よりも僕らは追加料金なし、タダで対応している。タダだぜ、タダ。マクドナルドのハンバーガーより安い。だけどそれでも、たとえタダでも、自分んとこの製品がメタメタなせいで誰かが苦労してるっていうのは、シクシクと腹が痛むことなのだ。冗談じゃあない。本当に痛むのだ。
 僕らは少しずつ状況を好転させていくつもりだ。だから、せめて僕はマトモな開発者になりたい。そうありたい。
 でも、僕は疲れた。
 だから温泉に行く。ゴールデンウィークを休む。休日は続くだろう――あらゆる責任とかそういうものを全てトイレの水に流して、それが溢れ帰って僕の足を濡らすその日までは。この世の害悪そのものであるところの携帯電話が鳴り、復帰命令が下されるそのときまでは。